故人の口座から葬儀費用を引き出す方法 – 預貯金の仮払い制度と手続きの流れ

突然家族を亡くし、気が動転している中で葬儀社から提示される数十万円から百万円を超える見積もり。手元にそんな大金はないし、故人の預金を使いたいけれど「口座は凍結される」と聞いて途方に暮れていませんか?葬儀は待ってくれない、でもどうやってお金を用意すればいいのか分からない――そんな不安と焦りの中にいる方も多いはずです。

実は、2019年7月に施行された改正相続法により、遺産分割協議が完了する前でも故人の預貯金から一定額を引き出せる「預貯金の仮払い制度」が創設されました。しかし、この制度の存在を知らない方や、具体的な手続き方法が分からず困っている方が少なくありません。

この記事では、2025年11月時点の最新情報に基づき、故人の預貯金から葬儀費用を安全に引き出す3つの方法を詳しく解説します。金融機関窓口での仮払い手続き(最大150万円)、家庭裁判所への申立て方法、そしてキャッシュカードでの引き出しに潜む法的リスクまで、必要な情報をすべて網羅しています。

この記事を読めば、具体的な手続きの流れ必要書類手続きにかかる期間が明確になり、安心して葬儀費用を工面できるようになります。また、相続放棄への影響相続税との関係など、後々のトラブルを避けるための重要な知識も身につけられます。

預貯金の仮払い制度を正しく利用すれば、法的リスクなく故人の預金から葬儀費用を支払うことができます。手続きには1〜2週間かかるため、できるだけ早く行動を起こすことが重要です。

目次

故人の預貯金から葬儀費用を支払う3つの方法

葬儀費用の支払いにはまとまった現金が必要になりますが、故人の預貯金を利用できれば遺族の金銭的負担を大きく軽減できます。故人名義の口座からお金を引き出す方法は3つあり、それぞれにメリットとリスクがあります。

方法1:預貯金の仮払い制度(金融機関窓口)

最も安全で推奨される方法です。2019年7月に施行された改正相続法により創設された制度で、遺産分割協議が完了する前でも、相続人が金融機関の窓口で直接手続きすることで故人の預貯金を引き出せます。

この方法のメリット

  • 法的に正式な手続きで安全
  • 家庭裁判所を通さず比較的簡単
  • 複数の金融機関でそれぞれ利用可能

⚠️ 注意点

  • 1金融機関あたり最大150万円の上限あり(ゆうちょ銀行は50万円)
  • 必要書類の準備が必要
  • 払い戻しまで1〜2週間程度かかる

方法2:家庭裁判所への申立て

金融機関での仮払い制度では上限額が足りない場合、家庭裁判所に預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てる方法があります。裁判所が必要性を認めれば、150万円を超える金額の払い戻しが可能になります。

この方法のメリット

  • 上限額に法的な制限がない
  • 高額な葬儀費用にも対応可能

⚠️ 注意点

  • 手続きが複雑で時間がかかる
  • 弁護士への相談が推奨される
  • 費用がかかる

方法3:キャッシュカードでの引き出し(リスクあり)

生前に故人からキャッシュカードと暗証番号を預かっていた場合、物理的には預金を引き出すことは可能です。銀行は名義人の死亡を自動的に把握できないため、届出前であれば引き出せてしまいます。

この方法のリスク

  • 相続放棄ができなくなる可能性がある
  • 他の相続人とのトラブルの原因になる
  • 法的には「相続財産の処分」とみなされるリスク

💡 やむを得ず利用する場合の対応

  • 他の相続人全員の了承を得る
  • 使途を葬儀費用など必要不可欠なものに限定
  • 引き出した金額や使途の領収書を必ず保管

結論:緊急の場合でも、可能な限り方法1の預貯金の仮払い制度を利用することを強く推奨します。

預貯金の仮払い制度とは?2019年改正相続法の内容

預貯金の仮払い制度は、2019年7月1日に施行された改正相続法により創設された制度です。この制度により、遺産分割協議が完了する前でも、葬儀費用や当面の生活費など緊急性の高い資金需要に対応できるようになりました。

仮払い制度が創設された背景

改正前の民法では、故人の預貯金は相続人全員の共有財産とみなされ、遺産分割協議が完了するまで相続人が単独で払い戻しを受けることができませんでした。

🔍 改正前の問題点

  • 葬儀費用の支払いができない
  • 故人と同居していた相続人の生活費が工面できない
  • 相続人間の協議に時間がかかると資金繰りに困る

この問題を解決するため、**民法第909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)**が新設されました。この条文により、相続人は遺産分割前でも一定の範囲内で被相続人の預貯金を引き出すことが法的に認められるようになりました。

2019年の法改正以降、2025年11月時点までこの制度に変更はなく、引き続き同じ条件で仮払い制度を利用できます。

仮払い制度を利用できる条件

📋 利用できる条件

  • 被相続人(故人)の法定相続人であること
  • 相続が開始している(被相続人が死亡している)こと
  • 被相続人名義の預貯金口座が存在すること
  • 遺産分割協議が完了していないこと

💡 主な用途

  • 葬儀費用の支払い
  • 被相続人の債務の弁済(入院費用など)
  • 相続人の当面の生活費

重要なポイントは、相続人が単独で手続きできることです。他の相続人全員の同意や承諾は法的には不要ですが、後々のトラブルを避けるため、事前に他の相続人に説明しておくことが推奨されます。

金融機関窓口での仮払い手続き|上限額と計算方法

金融機関の窓口で直接申請する方法は、家庭裁判所を介さないため比較的簡易かつ迅速に預貯金の払い戻しを受けることができます。ただし、払い戻しを受けられる金額には上限があります。

仮払いの上限額(150万円ルール)

金融機関窓口での直接申請で払い戻しを受けられる金額は、以下の計算式で算出される金額と150万円のいずれか低い方となります。

上限額の計算式と具体例

📐 計算式(相続開始時の預貯金額)× 1/3 ×(申請者の法定相続分)

この金額と150万円を比較して、低い方が実際の払い戻し上限額になります。

💡 計算例1:配偶者が申請する場合

故人の預金額:1,200万円 相続人:配偶者(法定相続分1/2)と子2人(各1/4)

配偶者の計算: 1,200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円

→ 150万円の上限があるため、実際の払い戻し額は150万円

💡 計算例2:子が申請する場合

上記と同じ条件で子が申請: 1,200万円 × 1/3 × 1/4 = 100万円

→ 150万円以下なので、払い戻し額は100万円

💡 計算例3:預金額が少ない場合

故人の預金額:300万円 相続人:配偶者(法定相続分1/2)のみ

配偶者の計算: 300万円 × 1/3 × 1/2 = 50万円

→ 150万円以下なので、払い戻し額は50万円

銀行ごとの上限額の違い(ゆうちょ銀行は50万円)

重要な注意点として、ゆうちょ銀行は他の金融機関と上限額が異なります。

金融機関上限額備考
三菱UFJ銀行150万円標準的な上限
三井住友銀行150万円標準的な上限
みずほ銀行150万円標準的な上限
ゆうちょ銀行50万円他行より低い
その他の一般銀行150万円標準的な上限

⚠️ ゆうちょ銀行を利用する場合の注意

ゆうちょ銀行では、法務省令で定められた150万円の上限とは別に、独自の上限として50万円が設定されている可能性があります。ゆうちょ銀行に故人の預金がある場合は、必ず事前に窓口で確認してください。

複数の金融機関に口座がある場合の対応

故人が複数の金融機関に口座を持っていた場合、各金融機関ごとに仮払い制度を利用することが可能です。

📝 複数口座がある場合の例

  • 三菱UFJ銀行:最大150万円
  • みずほ銀行:最大150万円
  • ゆうちょ銀行:最大50万円

→ 合計で最大350万円まで引き出せる可能性があります

⚠️ 注意事項

複数の金融機関から仮払いを受けた場合でも、すべての金額は最終的な遺産分割時に精算されます。引き出した金額が多ければ多いほど、最終的に受け取れる相続財産は減少します。

また、引き出したお金の使途によっては相続放棄ができなくなるリスクがあるため、葬儀費用や医療費など故人のために必要な費用に限定して使用することが重要です。

仮払い制度の具体的な手続き方法

預貯金の仮払い制度を利用する際の具体的な手続き方法を解説します。金融機関によって細部は異なりますが、基本的な流れは共通しています。

主要銀行での手続きの流れ

🔄 基本的な手続きの流れ

1. 金融機関への連絡 故人が口座を持っていた金融機関の支店に電話で連絡し、相続が発生した旨と預貯金の仮払い制度を利用したい旨を伝えます。

2. 手続き案内の受領 金融機関から必要書類や具体的な手続き方法について案内を受けます。不明点があればこの段階で質問しておくとスムーズです。

3. 書類の準備 必要な戸籍謄本等の書類を市区町村役場で取得し、金融機関所定の依頼書に記入・実印で捺印します。

4. 窓口での申請 準備した書類一式を金融機関窓口に提出します。本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を持参してください。

5. 審査と払い戻し 金融機関での確認・審査後、指定の方法(振込または現金)で払い戻しを受けます。

💡 主要銀行の専用窓口

多くの銀行では相続手続き専用の窓口や相談デスクを設けています。事前予約が必要な場合もあるため、まずは電話で確認することをおすすめします。

ネット銀行・デジタルバンクでの手続き方法

ネット銀行やデジタルバンクでも預貯金の仮払い制度に対応していますが、店舗を持たないため手続き方法が異なります。

💻 ネット銀行での対応方法

  • 郵送による書類提出と対応
  • コールセンター経由での相談と手続き
  • オンライン申請システムの利用(一部銀行)

📋 主なネット銀行の対応状況

銀行名対応状況手続き方法
楽天銀行対応ありコールセンター・郵送
ソニー銀行対応ありコールセンター・郵送
GMOあおぞらネット銀行対応ありコールセンター・郵送
みんなの銀行対応ありコールセンター・郵送
UI銀行対応ありコールセンター・郵送

⚠️ ネット銀行利用時の注意点

ネット銀行では対面での相談ができないため、事前に電話やメールで詳細な手続き方法を確認することが重要です。また、郵送でのやり取りになるため、通常の銀行よりも時間がかかる可能性があります。

必要書類一覧

仮払い制度を利用するには複数の書類が必要です。書類準備には時間がかかるため、早めに揃えておくことをおすすめします。

📄 被相続人(故人)の書類

  • 戸籍謄本(または除籍謄本):出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要
  • 通帳・証書・キャッシュカード:対象となる口座のもの

📄 相続人全員の書類

  • 相続人全員の戸籍謄本(または戸籍抄本):被相続人との関係を証明するため
  • 法定相続情報一覧図の写し(任意):これがあれば戸籍謄本等の提出を省略できる場合あり

📄 申請者本人の書類

  • 印鑑登録証明書:発行後6ヶ月以内のもの
  • 実印:書類への捺印に使用
  • 本人確認書類:運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど顔写真付きのもの
  • 金融機関所定の依頼書・申請書:各金融機関で書式が異なる

💡 法定相続情報一覧図について

法定相続情報一覧図は法務局で発行される書類で、これがあれば複数の戸籍謄本の提出を省略できる場合があります。複数の金融機関で手続きを行う場合は取得しておくと便利です。

取得には時間がかかりますが、窓口提出なら通常2〜7日、郵送の場合は8〜15日程度で取得できます。

手続きから払い戻しまでの期間

⏱️ 標準的な所要期間

書類提出から払い戻しまで、通常1〜2週間程度かかります。金融機関によっては、この期間が異なる場合もあるため、急ぎの場合は事前に確認しておきましょう。

📅 期間短縮のポイント

  • 必要書類を事前に完璧に揃える
  • 金融機関の専用窓口を予約して訪問する
  • 法定相続情報一覧図を事前取得しておく
  • 不明点は事前に電話で確認しておく

⚠️ 葬儀費用の支払いタイミングとの調整

葬儀社への支払いは通常、葬儀終了後1週間程度が目安です。仮払い制度の手続きには1〜2週間かかるため、葬儀社と支払い時期について事前に相談しておくと安心です。多くの葬儀社は事情を説明すれば柔軟に対応してくれます。

家庭裁判所に申し立てる方法|150万円以上必要な場合

金融機関での仮払い制度では上限額(150万円または預貯金額の1/3×法定相続分)に制限があるため、より多額の資金が必要な場合は家庭裁判所に預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てる方法があります。

裁判所申立てが適している状況

🏛️ 裁判所申立てが適しているケース

  • 必要な葬儀費用が150万円を超える場合
  • 遺産相続に関して共同相続人間で争いがある場合
  • 複数の金融機関での手続きが困難な場合
  • 相続人の法定相続分が小さいため、金融機関での仮払い額が少なすぎる場合

裁判所を通じた申立ては時間と費用がかかりますが、上限額に法的な制限がないため、必要性が認められれば法定相続分に近い額まで引き出すことが可能です。

申立ての手続きの流れ

📋 基本的な手続きの流れ

1. 遺産分割調停(または審判)の申立て 家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立てます。

2. 預貯金債権の仮分割の仮処分の申立て 上記と併せて、預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てます。

3. 裁判所での審理 家庭裁判所が必要性や金額の妥当性を審理します。

4. 審判書謄本の取得 裁判所の許可が下りたら、審判書謄本を取得します。

5. 金融機関への提出と払い戻し 審判書謄本を金融機関に提出し、払い戻しを受けます。

💡 弁護士への相談が推奨される理由

裁判所を通じた手続きは法的知識が必要で、書類の準備や申立て内容の作成が複雑です。弁護士に依頼することで、スムーズかつ適切な手続きが可能になります。

所要期間と費用

⏱️ 所要期間

裁判所への申立てから払い戻しまで、通常1〜3ヶ月程度かかります。緊急性が高い場合は、その旨を裁判所に伝えることで優先的に審理される可能性があります。

💰 費用

  • 家庭裁判所への申立て手数料:1,200円程度(収入印紙)
  • 郵便切手代:数千円程度
  • 弁護士費用:20万円〜50万円程度(依頼する場合)

⚠️ 注意点

裁判所を通じた方法は時間と費用がかかるため、まず金融機関での直接申請を検討し、それでも不足する場合に裁判所への申立てを検討するのが一般的です。

故人の口座は凍結される?キャッシュカードでの引き出しリスク

「人が亡くなったら銀行口座は自動的に凍結される」という誤解がありますが、実際の仕組みを正しく理解しておくことが重要です。

口座凍結のタイミング

よくある誤解: 亡くなった瞬間に自動的に口座が凍結される

正しい理解銀行に名義人の死亡を届け出たときに凍結手続きが開始される

銀行は人が亡くなったこと自体を自動的に把握することはできません。親族や相続人が銀行に死亡の届出をして初めて、口座凍結の手続きが始まります。

🔐 口座凍結の理由

銀行が口座を凍結するのは、相続人間のトラブルを防ぐためです。凍結せずに一部の相続人が預金を引き出してしまうと、他の相続人との間で紛争が起こる可能性があります。

キャッシュカードで引き出す場合の法的リスク

故人からキャッシュカードと暗証番号を預かっていた場合、物理的には預金を引き出すことが可能です。しかし、「引き出せる」ということと「引き出して使っていいのか」は全く別の問題です。

⚠️ 主な法的リスク

1. 相続財産の処分とみなされる 相続法上、故人の財産は相続人全員の共有財産となります。本来は相続手続きを経てから分配するのが原則です。

2. 他の相続人とのトラブル 故人の預貯金は相続人全員の共有財産であるため、一部の相続人が勝手に使うと他の相続人からクレームが発生する可能性があります。

3. 使途の証明責任 引き出したお金を何に使ったのか、他の相続人から説明を求められた場合、証明する責任が生じます。

💡 やむを得ず利用する場合の対応

  • 可能な限り他の相続人全員の了承を得る
  • 使途を葬儀費用や入院費など必要不可欠なものに限定する
  • 引き出した金額や使途について領収書などの証拠を必ず保管する
  • 使った金額と内訳を明細書として記録し、相続人全員に共有する

相続放棄への影響

故人の預貯金を使うと、相続放棄ができなくなる可能性があります。

📖 法的根拠

民法では、相続財産を処分した場合は**「単純承認」**(プラスとマイナスの遺産すべてを相続する意思表示)とみなされる場合があります。

⚠️ 特に注意が必要なケース

葬儀費用以外に故人のお金を使い込むと、「故人の遺産を既に使っているのだから、後から発見された借金なども含めて相続してもらう」と解釈される可能性が高まります。

相続放棄を守るための対応

  • 引き出した預金を葬儀費用など故人のために使用する
  • 自身の生活費など相続人個人のために使わない
  • 使途の領収書を必ず保管する
  • 相続放棄を検討している場合は、専門家に事前相談する

重要:これらの対応を取っていても、法的リスクが完全になくなるわけではありません。不安がある場合は、弁護士など専門家に相談することを強く推奨します。

仮払い後の遺産分割と相続放棄への影響

預貯金の仮払い制度を利用した後も、相続手続きは継続します。仮払い制度の利用が後の相続手続きにどのような影響を与えるのか、正しく理解しておきましょう。

仮払い金額は遺産分割時に精算される

仮払い制度を利用して預貯金を引き出した場合、この金額は**「遺産の先渡し」**として扱われます。

💰 遺産分割時の計算方法

仮払いを受けた金額は、遺産分割時にその相続人が取得する遺産総額から差し引かれます

📝 計算例

  • 法定相続分:1/2(配偶者)
  • 遺産総額:1,000万円
  • 仮払いで受け取った金額:100万円

→ 最終的な相続額:500万円(本来の相続分)− 100万円(仮払い分)= 400万円

🔄 公平性の確保

一部の相続人だけが仮払いを受けた場合でも、最終的な遺産分割では全相続人の間で公平性が保たれるよう調整されます。仮払いを受けなかった相続人は、同等の金額を優先的に受け取った後、残りを法定相続分または遺言に従って分割することが一般的です。

📋 遺産分割協議書への記載

仮払いを受けた事実と金額は、遺産分割協議書に明記することが重要です。これにより後々のトラブルを防止し、透明性のある相続手続きを進めることができます。

相続放棄ができなくなるケース

相続には単純承認相続放棄限定承認という3つの選択肢があります。仮払い制度を利用した場合の相続放棄への影響を正しく理解しておく必要があります。

相続放棄が可能なケース

葬儀費用としての利用

  • 葬儀社への支払い、お布施、火葬費用など直接葬儀に関連する費用に限定して使用した場合、一般的には「単純承認」とはみなされず、後から相続放棄をすることは可能とされています
  • ただし、使用した費用が「葬儀に必要な最低限の金額」であることが重要
  • 使用した金額の領収書や証拠を必ず保管しておく

相続放棄ができなくなるケース

生活費などへの流用

  • 引き出した預貯金を自身の生活費や、葬儀と直接関係のない費用に充てた場合、これは「相続財産の処分」と判断され、民法第921条の規定により単純承認したものとみなされる可能性が高まります
  • 単純承認となると、その後に相続放棄はできなくなります

⚠️ 判断が難しいケース

  • 法要費用(四十九日など)への使用
  • 墓石購入費用への使用
  • 香典返しへの使用

これらは葬儀費用と密接に関連していますが、判断が分かれる可能性があります。

安全に利用するための注意点

仮払い制度を安全に利用するためには、以下の点に注意してください。

📋 安全に利用するための対応

  • 他の相続人への事前の説明と了承を得る
  • 使途を葬儀費用など故人のために必要な費用に限定する
  • すべての支出の領収書を保管する
  • 使った金額と内訳を明細書として記録する
  • 必要に応じて写真やメモで記録を残す

💡 専門家への相談が必要なケース

  • 故人に多額の借金がある可能性がある場合
  • 相続人間で意見が分かれている場合
  • 相続放棄を検討している場合
  • 遺産分割が複雑になりそうな場合

法的な判断基準は事例ごとに異なるため、相続に関しては弁護士や専門家に相談することを強く推奨します。特に、故人に多額の借金が見つかる可能性がある場合は、仮払い制度を利用する前に必ず専門家に相談してください。

葬儀費用と相続税の関係

故人の預貯金を葬儀費用として利用する場合、相続税との関係性も理解しておくことが重要です。葬儀にかかった費用は相続税の計算において控除対象となるため、税負担が軽減される可能性があります。

相続税で控除対象になる葬儀費用

相続税法では、葬儀費用の明確な定義はありませんが、「葬式に関する費用」として通常必要と認められるものが対象となります。

控除対象となる主な費用

  • 通夜・告別式にかかる費用(葬儀社への支払い)
  • お坊さんへのお布施・戒名料など宗教関連費用
  • 火葬料金・埋葬費用(火葬場への支払い)
  • 通夜・葬儀の会場費や飲食費
  • お手伝いさんへのお礼(謝礼金)
  • 死亡広告の掲載費用
  • 遺体や遺骨の搬送費用
  • 死亡診断書・火葬埋葬許可書の費用
  • 遺体安置・ドライアイス費用
  • 霊柩車・バスなど交通費

📝 重要なポイント

これらの費用については、領収書や明細書を保管しておくことが重要です。税務調査の際に証拠として提示を求められる場合があります。

控除対象外となる費用

葬儀に関連するものでも、直接的な葬式費用とはみなされないものは控除対象外となります。

控除対象外となる主な費用

  • 香典返しの費用
  • お墓や墓石の購入・建立費用
  • 仏壇・仏具の購入費用
  • 法事・法要(四十九日や一周忌など)の費用
  • 墓地の永代使用料や管理費
  • 位牌の購入費用

🔍 控除対象外となる理由

これらは葬儀そのものというよりも、葬儀後の儀式や記念に関するものと判断されるため、控除の対象外となります。

領収書の保管が重要

📋 記録保管のポイント

  • すべての葬儀関連費用の領収書を保管する
  • 領収書がない費用(お布施など)はメモと金額を記録する
  • 葬儀社の明細書は必ず保管する
  • 写真や記録で証拠を残しておく

⚠️ 注意事項

実際の控除可否はケースバイケースで判断されることが多く、明確な基準がないのが実情です。税務署の判断に委ねられる部分も大きいため、不明点がある場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

💡 相続税申告時の対応

葬儀費用として控除を受ける場合は、相続税の申告時に必要書類を提出する必要があります。葬儀社の明細書や領収書など、支出の証明となる書類を整理して保管しておきましょう。

葬儀費用の支払いに関するよくある質問

葬儀社への支払いはいつまでに行う必要がある?

葬儀社への支払いは一般的に葬儀終了後1週間程度が目安です。多くの葬儀社では葬儀当日または翌日に精算書を渡され、その後の支払いとなります。現金払いが基本ですが、クレジットカードや銀行振込に対応している場合もあります。預貯金の仮払い制度を利用する場合は手続きに1〜2週間かかるため、葬儀社と支払い時期について事前に相談しておくことをおすすめします。

仮払い制度の手続きにどれくらい時間がかかる?

金融機関窓口での手続きの場合、書類提出から払い戻しまで通常1〜2週間程度かかります。必要書類を完璧に揃えておくことで期間を短縮できる場合があります。家庭裁判所への申立ての場合は1〜3ヶ月程度かかります。

複数の相続人がいる場合、誰が手続きできる?

仮払い制度は相続人が単独で手続き可能です。他の相続人全員の同意や承諾は法的には不要ですが、後々のトラブルを避けるため、事前に他の相続人に説明しておくことが推奨されます。

仮払いを受けた後に相続放棄はできる?

仮払いを受けた資金を葬儀費用として使用した場合は、一般的に相続放棄が可能とされています。ただし、自身の生活費など葬儀と関係のない費用に使った場合は、相続財産の処分とみなされ相続放棄ができなくなる可能性があります。使途の領収書を必ず保管し、不安がある場合は弁護士に相談してください。

ネット銀行でも仮払い制度は利用できる?

楽天銀行、ソニー銀行、GMOあおぞらネット銀行などの主要なネット銀行は仮払い制度に対応しています。ただし店舗がないため、コールセンター経由または郵送での手続きとなります。通常の銀行より時間がかかる可能性があるため、事前に電話で詳細を確認することをおすすめします。

葬儀費用が150万円を超える場合はどうすればいい?

複数の金融機関に口座がある場合は、各金融機関ごとに仮払い手続きを行うことで合計額を増やせます。それでも不足する場合は、家庭裁判所に預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てる方法があります。また、葬儀社と分割払いなどの相談をするのも一つの選択肢です。

ゆうちょ銀行の上限額が他の銀行と違うのはなぜ?

ゆうちょ銀行では、法務省令で定められた150万円の上限とは別に、独自の上限として50万円が設定されています。他の一般的な銀行とは異なるため、ゆうちょ銀行に故人の預金がある場合は必ず事前に窓口で確認してください。

法定相続情報一覧図を取得するメリットは?

法定相続情報一覧図があれば、複数の戸籍謄本の提出を省略できる場合があります。複数の金融機関で手続きを行う場合に特に便利で、窓口提出なら2〜7日、郵送なら8〜15日程度で取得できます。法務局での保管期間は5年間で、その間は何度でも無料で再交付が可能です。

まとめ

故人の預貯金から葬儀費用を支払うには、2019年改正相続法による預貯金の仮払い制度を利用するのが最も安全な方法です。金融機関窓口での手続きなら最大150万円(ゆうちょ銀行は50万円)まで、または預貯金額の1/3×法定相続分のいずれか低い方まで引き出せます。複数の金融機関に口座がある場合は、各金融機関ごとに利用できます。

手続きには被相続人の戸籍謄本、相続人の印鑑証明書などが必要で、払い戻しまで1〜2週間程度かかります。仮払いを受けた金額は遺産分割時に精算されるため、他の相続人への事前説明と領収書の保管が重要です。葬儀費用として使った場合は相続放棄も可能ですが、他の目的で使用すると相続放棄ができなくなる可能性があります。不安がある場合は、弁護士・行政書士・税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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