多くの女性にとって、お化粧は身だしなみの一部であり、TPOに合わせたメイクが求められます。特に、故人を偲び、厳粛な気持ちで臨むお葬式(葬儀・告別式)やお通夜といった弔事の場では、服装だけでなくメイクにも特別な配慮が必要です。
華美な印象を与えるメイクは避け、「片化粧(かたげしょう)」と呼ばれる控えめな薄化粧をするのが基本的なマナーとされています。しかし、「どこまでが許容範囲なの?」「すっぴん(ノーメイク)では失礼にあたる?」「急なお通夜に駆けつけるときはどうすればいい?」など、具体的な判断に迷う場面も少なくありません。
この記事では、お葬式・お通夜にふさわしいメイクのマナーについて、基本となる片化粧の考え方から解説します。さらに、ベースメイク、アイメイク、口紅といったパーツごとの具体的なポイント、すっぴんの是非、お通夜での対応方法、学生の場合など、多くの方が疑問に思う点を網羅し、大人の女性として知っておきたい知識をわかりやすくお伝えします。
葬儀・お通夜メイクの基本「片化粧」とは?
通夜や葬儀などの弔事に参列する場合、「片化粧(かたげしょう)」と呼ばれるメイクが基本的なマナーとされています。これは故人を偲び、厳粛な場にふさわしい敬意を表すための大切な配慮です。
片化粧(薄化粧)の考え方:身だしなみとしての最低限メイク
片化粧とは、「薄化粧(うすげしょう)」とも呼ばれ、故人を偲ぶ場にふさわしい、控えめなメイクのことを指します。その目的は、おしゃれをするためではなく、社会人としての最低限の「身だしなみ」を整え、TPOに合わせた品位を保つことにあります。
ノーメイク(すっぴん)では顔色が悪く見え、かえってご遺族に心配をかけてしまう可能性もあるため、健康的な印象を保つ程度のメイクが推奨されます。普段のナチュラルメイクに近いイメージですが、弔事においてはより一層の配慮が求められます。
おしゃれ目的はNG:華美・派手さを避ける
片化粧の大原則は、「華美にならない」「派手さを避ける」ことです。おしゃれとしてのメイクは厳禁であり、弔事の場にふさわしくない要素はすべて避ける必要があります。
具体的に、片化粧で避けるべき要素は以下の通りです:
- 鮮やかな色や濃い色(特に口紅やチークなど)
- 光沢感やキラキラ感(ラメ・パール入りのファンデーション、アイシャドウ、リップグロスなど)
- 流行を意識したスタイル(個性的なアイライン、眉の形など)
ただし、片化粧には明確な定義やルールが存在しないため、どこまでが許容範囲かは個人の解釈や地域の慣習によって異なる場合もあります。判断に迷った場合は、できるだけ控えめに、目立たないように仕上げることを心がけましょう。大切なのは、故人を悼み、ご遺族を気遣う気持ちを表すことです。
【基本編】片化粧のやり方とメイクポイント
葬儀や法事におけるメイクの基本は「片化粧(かたげしょう)」です。これは派手さを抑え、身だしなみとして最低限施すナチュラルメイクを指します。おしゃれではなく、故人を偲び、控えめであることが重要です。ここでは、片化粧の具体的なやり方と、パーツごとのポイントを解説します。
ベースメイク:マットな陶器肌が基本
肌はツヤ感を抑え、落ち着いたマットな質感に仕上げるのがマナーです。
選び方:ツヤ・ラメ・パール入りは避ける
光沢感の出るリキッドファンデーションや、ラメ・パール入りの下地、パウダーは弔事には不向きです。華美な印象を与えてしまうため、必ず避けましょう。
仕上げ方:BBクリーム+パウダーなどがおすすめ
自然なカバー力があり、マットに仕上がるBBクリームやCCクリームに、フェイスパウダーを重ねると、簡単に落ち着いた陶器肌を作れます。厚塗りにならないよう注意し、素肌感を残す程度に留めましょう。
眉メイク:自然な形と色を意識
眉は整えすぎず、自然な形を心がけます。意志の強さや活発さを感じさせる形は避けるのが無難です。
避けたい眉:細すぎ、角度がある、短い眉
細すぎる眉や、くっきりとした角度をつけた眉、短すぎる眉は避けましょう。アクティブな印象が弔事の場にふさわしくないとされることがあります。
おすすめの色:髪色に近いダークブラウンなど
アイブロウの色は、髪色に合わせるのが基本です。ただし、髪色が明るい場合でも、ダークブラウンなど落ち着いた色を選ぶようにしましょう。パウダータイプでふんわりと描くと、自然な仕上がりになります。
アイメイク:最も控えめにすべき箇所
目元のメイクは特に控えめにする必要があります。悲しみを表現する場であることを意識し、華やかさや目力を強調するメイクは厳禁です。
アイライン・マスカラ:基本的に使わないか、気づかれない程度に
アイラインやマスカラは、基本的に使用しないのが望ましいです。もし使う場合は、インラインにする、ビューラーを使わずにマスカラを一度塗りにするなど、他者から見てほとんど気づかれない程度に抑えましょう。ボリュームタイプやロングタイプは避けてください。
ビューラー:使用を避ける
まつ毛をカールさせるビューラーの使用は避けましょう。まつ毛が上がっていると、目元が華やかな印象になりがちです。
アイシャドウ:使用は慎重に(ベージュ系など)、使わない選択も
アイシャドウは、使わないという選択も一般的です。もし使う場合は、肌なじみの良いベージュやブラウン系のマットな単色を選び、ごく薄く塗る程度にします。ラメやパール入りは絶対にNGです。
【注意】カラコン・つけまつげ:原則NG
カラーコンタクト(カラコン)やつけまつげは、おしゃれ目的とみなされ、マナー違反となります。絶対に使用しないでください。
涙対策:ウォータープルーフ製品の検討
葬儀では涙を流す場面もあります。メイク崩れが心配な場合は、最低限使用するアイラインやマスカラをウォータープルーフタイプにすることも検討しましょう。ただし、崩れた際に目立たないよう、やはり控えめにすることが前提です。
チーク:原則使わない
血色を良く見せ、華やかな印象を与えるチークは、基本的に使用しません。
例外:顔色が悪く見える場合のみ、ごく薄く
顔色が悪く、不健康に見えてしまうのが心配な場合に限り、ごく薄く使うことが許容されることもあります。
色選び:ラメ・パール・高発色は避ける
使用する場合でも、ラメやパールが入っていないマットなタイプを選び、肌なじみの良い、発色の穏やかなベージュ系や薄いピンク系などを、ほんのりと乗せる程度に留めましょう。
口紅・リップ:色と質感選びが重要
唇に色がないと、顔全体の血色が悪く見えがちです。落ち着いた色の口紅を薄く塗ることは、身だしなみとして許容されています。
使う目的:血色を良く見せるため
あくまで健康的に見せるのが目的であり、おしゃれのためではありません。
選び方:マットで落ち着いた色(ベージュ、ブラウン系)
口紅はツヤのないマットな質感のものを選びます。色は発色の良い赤やピンク、オレンジなどは避け、肌なじみの良いベージュ系や落ち着いたブラウン系が適しています。元の唇の色に近い、自然な色を選ぶと良いでしょう。
【注意】リップグロス:NG
ツヤが出てしまうリップグロスや、ラメ入りの口紅はNGです。
「すっぴん・ノーメイク」で参列はマナー違反?
お葬式や告別式といった弔事の場で、「すっぴん」や「ノーメイク」で参列しても良いのか、迷う方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、大人の女性の場合は最低限のメイクをするのが望ましいとされています。
なぜNG?:やつれた印象を与え、かえって心配をかける可能性
完全にノーメイクの状態ですと、葬儀場の照明や場の雰囲気と相まって、顔色が悪く見えたり、やつれた印象を与えてしまったりすることがあります。
故人との別れで悲しんでいるのは当然ですが、必要以上に疲れているように見えると、ご遺族に「体調が悪いのでは?」など余計な心配をかけてしまう可能性があります。そのため、ノーメイクでの参列は避けた方が良いとされることが多いです。これは「おしゃれ」のためではなく、周囲への配慮としての側面があります。
大人の身だしなみとしての最低限メイクは推奨
社会人として弔いの場に臨むにあたり、最低限のメイクは身だしなみの一つと捉えられています。これは、お葬式のメイクの基本である「片化粧(薄化粧)」の考え方にも通じます。
目的は、肌の色ムラを整えたり、唇の血色を補ったりすることで、健康的で落ち着いた印象を与えることです。決して華やかに見せるためではありません。「品を保つ」という意味でも、大人の女性は最低限のメイクを心掛けることが推奨されます。
無理にする必要はないケース
ただし、ノーメイクが絶対に許されないわけではありません。以下のような場合は、無理にメイクをする必要はありません。
学生(高校生以下)の場合
学生の方、特に高校生以下のお子さんの場合は、お化粧をする必要はまったくありません。すっぴんのままで参列して、マナー違反にはあたりません。
肌が弱い・アレルギーがある場合
肌が弱い方や、化粧品に対するアレルギーがある方も、無理をしてメイクをする必要はありません。健康を害してまでメイクをすることは望ましくありません。ご自身の体調を最優先してください。このような事情がある場合も、ノーメイクがマナー違反と見なされることはありません。
【状況別】お通夜・葬儀でのメイクの違いと注意点
お通夜と葬儀(告別式)では、故人を偲ぶ気持ちに変わりはありませんが、状況によってはメイクへの対応が少し異なります。それぞれの場面でのメイクの考え方と注意点を解説します。
急な訃報での「お通夜」のメイク対応
お通夜は、訃報を受けて急いで駆けつける場合が多いです。そのため、メイクや服装を十分に整える時間がないことも少なくありません。
葬儀との違い:服装・時間の制約
葬儀(告別式)とお通夜の大きな違いは、準備にかけられる時間です。葬儀は事前に日時が決まっているため、喪服を着用し、片化粧(薄化粧)を整えて参列するのが一般的です。
一方、お通夜は突然の連絡で向かうことも多く、必ずしも喪服ではなく地味な平服で参列することもあります。メイクも、葬儀と同様の片化粧を施すのが理想ですが、時間的な制約から難しい場合があることを理解しておきましょう。
基本は薄化粧、ただし間に合わない場合
お通夜に参列する際も、基本的には葬儀と同じく、控えめな片化粧を心がけるのがマナーです。しかし、仕事先から直接向かう場合など、メイクを直す時間がほとんどない状況も考えられます。
そのような場合は、必ずしも完璧な片化粧である必要はありません。大切なのは、故人を悼む気持ちと、場にふさわしい配慮を示すことです。
最低限の対応:派手なアクセサリーを外すなど
もしメイクを十分に直す時間がない場合は、最低限の対応として以下の点を意識しましょう。
最低限の身だしなみ調整:
- 華美なアクセサリー(大ぶりのイヤリング、派手なネックレスなど)や時計を外す
- 派手な色の口紅やアイシャドウを軽くオフする
- 髪が乱れていれば簡単に整える
普段のメイクが比較的しっかりしている場合は、可能であればラメやパール感の強い部分、派手な色味だけでも抑えるようにすると、よりお通夜の場に適した印象になります。
難しいこと:マツエク、ネイルオフなどは無理にしなくて良い
急いで駆けつける場合、その場ですぐに対応できないこともあります。例えば、まつげエクステ(マツエク)やジェルネイル、明るい髪色などは、すぐに変更することは困難です。
これらについて、お通夜の時点では無理に対応する必要はないと考えられています。ただし、葬儀(告別式)に参列する際には、可能であればより控えめな状態に整えるのが望ましいでしょう。
お通夜での口紅は?:基本に準じるが、なければ無理しない
お通夜での口紅も、基本的には葬儀のマナーに準じ、ベージュ系などの控えめでマットな色を選びます。ただし、急いでいて手元に適切な口紅がない場合や、メイクを直す時間がない場合は、無理に塗る必要はありません。リップグロスなどのツヤが出るものは避けましょう。
「遺族」の場合のメイクは?
遺族として弔問客を迎える立場であっても、メイクに関する基本的な考え方は参列者と同じです。
基本マナーは同じ:「身だしなみ」として行う
遺族であっても、ノーメイクは顔色が悪く見え、弔問客に余計な心配をかけてしまう可能性があります。お洒落のためではなく、あくまで「身だしなみ」として、最低限の片化粧を施すのが望ましいとされています。
参列者以上に「華美にならない」意識を
メイクのルール自体に遺族と参列者で明確な違いはありません。しかし、遺族は弔問を受ける立場であるため、参列者以上に「華美にならない」という意識を強く持つと、より丁寧な印象になります。
例えば、唯一色味を使う口紅を、より肌の色に近い目立たない色にするなどの配慮をする方もいらっしゃいます。落ち着いた品のある佇まいを心がけましょう。
【学生向け】高校生はお化粧するべき?
基本的にメイクは不要
学生(特に高校生以下)の場合、基本的にお化粧(メイク)をする必要はありません。大人のように「身だしなみ」としてメイクを求められることは少ないため、ノーメイクのまま参列するのが一般的です。無理にメイクをすることは避けましょう。
普段メイクをしている場合:しない、または非常に薄く抑える
もし普段からメイクをする習慣がある高校生の場合でも、お葬式やお通夜の場では原則としてメイクはしない方が望ましいです。
どうしても気になる場合は、血色が悪く見えないように最低限のBBクリームやパウダーを薄く塗る程度に留め、アイメイクや色付きリップなどは避けるようにしましょう。あくまでも「しているか分からない」程度に抑え、派手な印象にならないよう最大限の配慮が必要です。
芸能人の葬儀メイクは参考にしていい?
基本的には参考にしない方が良い理由
芸能人のお葬式でのメイクや服装がメディアで報じられることがありますが、一般の参列者がそのまま参考にするのは避けるべきです。
過去には、ノーメイクで参列された女優や、逆に華美なメイク・服装で参列して話題になったタレントもいました。これらは故人との特別な関係性や、取材陣がいる特殊な状況などが影響している可能性があります。
立場や状況の違いを理解する
芸能人と一般人では、社会的な立場や葬儀の場の状況が大きく異なります。
一般の参列者は、故人を偲び、ご遺族への配慮を最優先にした控えめな身だしなみを心がけるのがマナーです。メディアの目を意識する必要もありません。常識の範囲で、悪目立ちしないメイクを意識することが大切です。
葬儀・お通夜メイクの総括
葬儀・お通夜のメイクで最も大切なのは、「片化粧(薄化粧)」を基本とし、華美にならないよう控えめにすることです。これはおしゃれのためではなく、故人を悼み、ご遺族への敬意を示すための最低限の身だしなみと捉えましょう。
派手な色や光沢のあるアイテムは避け、ナチュラルで落ち着いた印象を心がけることが、故人を偲ぶ場にふさわしいメイクの基本マナーです。